渡仏時代から「すごい奏者」という噂を耳にしていたので、帰国後の本格的な活動を楽しみにしていました。そして期待にたがわない活躍ぶり。現代音楽が本領のようですが、東京文化会館でのリサイタルでは古典的なプログラムでもその実力を発揮していました。また、即興演奏を中心としたS.アームブリュスターとのデュオ「Vol.333」の活動や、坂田明、清水靖晃といったジャズ奏者との共演など、ジャンルを超えた演奏活動を行なっています。その平野氏の詳しいプロフィールは公式ページをください。
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平野氏のデビューアルバムは、ソロから5重奏まで、始めから最後までサクソフォンだけで構成された曲ばかり。ゲンダイオンガク好きの人以外にあまり馴染みのない作曲者の曲や循環呼吸や重音を駆使した即興的要素の強い曲が多い、と書いてしまうと、聴くのをためらわれる方も少なくないと思いますが、一度聴いてみてください。冒頭ミレニアムの、ヴィヴラートがごく控えめで、まるで教会音楽を聴いているような擬似古典的な響きは、不思議と心を惹きつけられ、そのままアルバムを聴きとおしてしまいました。
リードフェイズでは、同じくライヒのニューヨーク・カウンターポイントを思わせるサウンドが繰り広げられます。トリッド・オン・ザ・トレールはアルテQのグルーヴの効いた演奏やデルタSQの客観的な演奏とも違う、クールかつホットな音楽作りは、聴き比べると一層その独自性が理解できます。アルテQのアルト奏者でもあるアームブリュスター氏と繰り広げられるスタン・ザ・マンの、即興性の強い演奏はこの録音の中の真骨頂ではないでしょうか。
平野氏の生の演奏で感じられる即興演奏時の「(醒めた)気迫」感が、ディスクを通じるとどうしても薄まってしまう点が残念。これは、演奏者のせいでも製作者のせいでも録音のせいでもなく、CDというメディアの限界なのかもしれません。
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このサイトでこのアルバムをご紹介するべきか迷ったのですが、気になる奏者ですので、勝手に宣伝を兼ねてご紹介させてください。セカンド・アルバムは、タイトルのジュラシックが意味するとおり、ジャズとクラシックにまたがる作品。ただし、クラシックでもジャズでもない平野氏の音楽というにふさわしいアルバムで(私自身の感想としては、よりジャズの要素が強いと感じましたが)、演奏の完成度はもちろん音楽の方向が明確で迷いがなく、聴いている私も快感。
デニソフのソナタが、ここではジャズ編曲されて演奏されているのが目にとまりますが、こうやって聴くと違和感がありません。現代音楽とモダンジャズって、こんなに近い位置にいたの?と驚いてしまいました。
なお、最後のトラックのラプソディは、大和証券SMBC企業CMに使われてます(というクレジットがあること自体、クラシック系のCDではまずないことですね)。
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アルバムのタスキに曰く「デビュー・アルバム3部作、完結編!」。なるほど、ここまでの3枚で、平野氏のさまざまな顔を認識できると同時に、平野氏の持つ音楽の方向性のかなりの部分が見えてきました。このアルバムではドイツの作曲家による3つの作品が取り上げられています(少なくとも前2者はサクソフォンのレパートリとしては珍しいものではありませんが)。平野氏は、旧来のフランス的な音色ではなく、どこまでも直線的でストレートに迫る音色で、これらの作品を奏でます。そして、曲の進行とともにその音色がさらに凝縮され、最後には狂気と紙一重のところまでテンションがかかるのが平野氏の演奏の骨頂でしょう。曲の自由度の高いゴルトベルク協奏曲はなるほどその演奏方法に説得力を感じましたが、ブラームスでは音程や音の跳躍など技術面に不安を感じたのはちょっと残念。これで3部作に続いて、平野氏がいったい何を私たちに問いかけてくるのか楽しみです。
なお、2004/9/22にオクタヴィアレコードより再発売されました。(OVCC-0003)
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スピーカーから流れてくる音楽は、、肩肘張ることもなく、バッハ演奏にありがちなストイックさも、見栄もハッタリもなく、あるべき音楽が淀みなくきちんと響いていることがいかに気持ちよいことかをあらためて認識させてくれます。サクソフォンによる演奏云々なんて関係ありません。ここに響いているのは、平野公崇という音楽家そのものであり、それ以上でもそれ以下でもありません。技術的にまったく問題ないことはいまさら言うまでもなく、かといって無個性ではなく、存在感を十分感じさせる不思議なアルバムです。その上、平野氏のさまざまな才能の片鱗を感じさせつつ、それがすべてバランスよくきちんと収まっているのも奇跡的。非凡の凡とでも言えばいいでしょうか。おだやかな感動を感じました。
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日本テレビの古野氏がプロデューサとなり『深夜の音楽会』でオンエアされた、平野氏の自作自演のライヴ録音。画家有元利夫氏の絵にインスパイアされた作品で、流れてくる音楽は即興部分を除いて古典的な響き。だとしたら、オーケストラ部分にはより端正で伸びのある演奏を期待したかったところですが、平野氏の意気込みとプロデューサの意向が一致してひとつの音楽に結晶した結果、確かに眼前に有元氏の絵が大きく立ちはだかってくるように感じました。
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多数の美しい映画音楽を生み出したことで有名なイタリアの作曲家、エンニオ・モリコーネ。その名前を知らなくても、「続・夕陽のガンマン」「死刑台のメロディ」「アンタッチャブル」「海の上のピアニスト」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」「ニュー・シネマ・パラダイス」などなど、耳にすればきっと「あ、この曲ね」とわかるはずです。最近では2003年のNHK大河ドラマ「武蔵」のテーマ曲も手がけています。このアルバムは、モリコーネのメロディ・メーカとしての側面だけでなく、現代音楽作曲家としての側面を積極的にとりあげ、さらにはモリコーネのメロディによる、奏者の即興的な演奏(モリコーネは即興演奏の点でも特筆すべき音楽家であった)にも及んだ意欲的な録音となっています。平野氏はブリッツに4重奏のメンバとして、またアルジェの戦いに基づいたインプロヴィゼーションを展開しており、特に後者は平野氏ならではの気迫を感ずにはいられないすばらしい演奏を繰り広げています。確かにこのアルバムはモリコーネの多様な音楽を集め、すばらしい演奏家による録音であることには違いなく、その点はモリコーネ自身からこのアルバムに寄せられた賛辞の言葉でも裏付けられています。ただ、私はその多様性に戸惑ったのが正直なところ。要は、その多様性の奥に確かに存在する、核心の部分をつかみきれてないのわけなのですが、、、
「日本の作曲・21世紀へのあゆみ」実行委員会が、趣旨に沿って毎年開かれる演奏会を収録したCD。販売ルートが限られていますが、25枚のライヴ録音盤を発売しています。タイトルどおり1960年後半期の作品は、湯山作品を除いて、前衛的な奏法こそ少ないものの抽象的かつ難解。充分聴いていて理解できているわけではないのですが、ここに録音されている中では、三善氏の弦楽4重奏曲第2番の、凝縮された響きの持続が印象的でした。
肝心のディヴェルティメントの演奏ですが、気合が入りながらも、特に奇を衒うことのない正統的な演奏。それでいて、微妙なそっけない演奏やなんとも居心地の悪い演奏にならず、生理的にスムーズに受け入れられる音楽になっているのは、平野氏のセンスとテクニックによるところが大きいといえます。曲自体が日本的な間・フレーズの取り方を要求している個所もありますが、それを必要以上に強調せず見通しのよい音楽に仕上がっているのに感心しました。インターナショナルなセンスがついていることがプラスになっているのでは、とは勘ぐり過ぎかな。ライヴとはいえほとんど傷のない演奏もすばらしいです。