香港生まれの期待の若手サクソフォン奏者。香港演芸大学を卒業後アメリカに渡り、インディアナ大学でルソーに師事し、サクソフォン奏者として同大学初の Art Diploma の称号を得て卒業します。1996年にはニューヨークのカーネギー・ホールでリサイタル・デビューし、New York Times では「A young virtuoso!」と絶賛を受けます。1997年には来日してリサイタルを開いているそうですが、知りませんでした、、知ってたら聴きに行ったのに! 現在はヤマハ・パフォーミング・アーティストとして同社の楽器を使ってるようですが、これもルソーの弟子に共通することですね。現在アメリカ活躍する若手奏者でもっとも私が注目している奏者です。
1999年6月に服部吉之氏の招きで再来日し、林田和之氏とのデュオ・リサイタルを行ないましたが、すべての音域でムラのない、柔らかくて伸びがある美しい音色を聴かせてくれました。注目すべき点は、ソロ曲(無伴奏)に対する積極的な姿勢で、下記のアルバムでも1曲ずつ収録されていますが、リサイタルでもフェルドのラプソディカ組曲とモロスコのブルー・カプリスの2曲を取り上げていました。
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Crystalレーベルからのリリース。カーネギーホールでのリサイタル時と同じカリによる伴奏で録音されたデビュー・アルバムで、生まれたばかりの第一子 Rebecca ちゃんに捧げられたと書かれています。Crystal レーベルのサクソフォンCDはハズれが少なくないので買うのを一瞬ためらったのですが、フェルドを聴いた瞬間から音色の美しさに耳を疑いました。こんな美しいサクソフォンは、久しく聴いてなかった気がします。師匠ルソーのニュートラルで完璧なテクニックに、さらに惹きつけられる甘美さを併せもつすばらしい音色。技術的にもまったく破綻なく、終始コントロールされながらもホットな音楽作りをしています。中でもムツェンスキと、どソロのブルー・カプリスは圧巻。絶対買いの一枚です。
なお、アルバムタイトル「Sparkling Sax」は、ジャケットのどこにも書かれていませんが、Crystalレーベルのカタログにはこう書かれています(笑)。
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RIAXレーベルからリリースされた2作目。衝撃度は第1作目の方が上かもしれませんが、どの曲もまったくスキなく演奏されており、あらためて舌を巻きます。このアルバムにも伴奏無しのソロ曲が入っていて、散漫になりがちなソロ曲のリュエフも一瞬も飽きさせることなく最後まで聴かせてくれました。サン=サーンスのコントロールされた演奏は、師のルソーゆずりです。なお、伴奏者として2人の名前がクレジットされていますが、どの曲が誰が担当しているのかはジャケからはわかりませんでした。
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見慣れないレーベルからのリリースですが、プロデューサはRIAXのイソダ氏で、録音も通じるところがあります。選曲がバラエティに富んでおり、一部日本での林田和之氏とのジョイント・リサイタルでのライヴ録音も含まれています。チェ氏・林田氏それに服部氏による思い出は、実演を聴いた時は3者の音色の違いがずいぶん感じられたのですが、この録音ではアラ不思議、かなり音色の方向がそろって聴こえてきてびっくり。どの曲からも力みのない透明感のある音色があふれていて、聴いていてとても幸せな気分になりました。チェ氏の演奏だとエレジーとロンドのような緊迫感のある曲でもすいすい曲が進んでしまい、あっさり終わってしまうのが難? いやいや、これは趣味の問題でしょう。バラードやアリアも、最初に聴いた時は比較的あっさりした演奏だと感じましたが、繰り返し聴くうちに微妙なニュアンスが透明な音色の奥から浮かび上がってきました。
なお、アルバムタイトルのIn Memoriesは、先年なくなった、ジャケットに写真のある母親への追悼を意味しています。また裏ジャケットには奥さんと子供の写真が載っています。
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再びCrystalレーベルからのリリース。リリース前からチェ氏ご自身からご案内を頂きながら、入手に手間取り半年以上経ってしまいました。アメリカのコンテンポラリーな作品がそろっており、どの曲もけして理解しやすい曲ではないのですが、チェ氏の美しい音色の前にはコムツカシいことなどどうでもよくなって聴きほれてしまいます。そして、そのうちだんだんと作曲者の、あるいは演奏者の意図しているところが体で理解できてしまうのが不思議です。この、肩肘張らない親しみやすさは、なんなのでしょう? 低音ファンとしてはハートレーのバリトン・サクソフォンのためのソナタが収録されているのも嬉しい限り。ちなみにチェ氏のバリトンは、私と同じヤマハのYBS-62Uにヴァンドレンのリガチュアなんですよね(ちなみにマウスピースはルソーモデルのようで、ここだけ私の楽器と違います)。この差はなんなのだろう(自己嫌悪)、、それはともかく、初心者向けとは言えませんが、音大でサクソフォンを学ぶ方にぜひ聴いていただきたいアルバムです。
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すべてソプラノ+ピアノによるアルバム。1曲目の蜂から、いきなり循環呼吸による超絶な演奏が繰り広げられ、圧倒されます。これがテクニックが技術の披露に終わらず、音楽的な表現力となって迫ってくるところがすごい。続くフォーレの、心温まるメロディも力まず美しく表現されています。旅するサックス(原題 Sax de Voyage)は、民謡調の様々なスタイルのメロディが続くメドレー曲ですが、こういう娯楽的な要素の強い曲でも手抜きせずきちんと仕上げているのも感心。ファンタジアの茶目っ気あふれる変幻自在な曲想も、チェ氏は小細工せずそのまま音楽に昇華させています。茶目っ気たっぷりのフルモーの演奏とはかなり方向性が異なるので、聴き比べてみるとおもしろいでしょう。しいて難癖をつければタンゴの歴史では楽譜の問題やテクニックの問題がやや感じられたのが残念ですが、これは贅沢すぎる感想でしょう。
このアルバムをさらに魅力的にしているのが、やわらかく美しい音色です。ソプラノは楽器の性質上どうしても金属的な刺激のある音色になりやすく、長時間聴きつづけると疲れてしまうことが多いのですが、チェ氏の音色は聴き疲れしないどころか、いつまでも聴いていたくなるような、優しく透明な音色なのです。ソプラノを吹く方は是非聴いていただきたいCDです。
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彦坂氏+新井氏の演奏がストイックに音楽性に直球勝負をかけたのに対して、チェ氏+須川氏の演奏は、サックスってやっぱり楽しくなきゃね、と、気楽にキャッチボールを楽しんでいるような様子(そして、どう、一緒に遊ぼうよ、と声をかけられてるような気さえします)。このリラックス感は選曲や音色によるところも大きいと思いますが、ラクールのデュオって、こんなおもしろい曲だったんだ、と、ワクワクしながら聴くことができる、という当たり前のことがうれしいです。長生淳の2曲も、曲自体が備えているリラックスした雰囲気が、この2人のキャラクターにもあってるのでしょう、曲によってトップを交替しながら、まさに「楽しい」演奏を繰り広げています。もちろん、曲自体はすごいテクニックを要する曲であるのですが、そんなことを全く感じさせません。
ところで、ケネス・チェ氏、最後に来日してから、おそらく15年近くになるはず。このCDのリリースを機に、是非来日して須川氏とのデュオを演奏してくれないものでしょうか。今年のサックスフェスあたりに招聘されたりすると面白いと思うんですが。。(勝手な意見)。ちなみに、2人ともヤマハ・アーティストという共通点もあったりするんですね。
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サクソフォン、バスーン、ピアノという珍しい組み合わせによるレコーディング。当然この編成のためのオリジナル曲は少ないのですが、チェ氏をはじめとしたアイオワ大学の教授陣のトリオはみごとな演奏を繰り広げています。どの曲も現代的な曲想ですが、トリオの演奏は必要以上にそれを難解にせず、ごく息の合ったメンバーによる余裕をもった演奏で、曲の魅力を最大限愉しむことができました。特に、フェルドが当初クラリネットとバスーン、ピアノのために書いたトリオ・ジオコソで聴くことのできる緊密な連係プレーや、言葉より大きくでのベクトルの定まった集中力は聴きモノです。有名な曲のない地味なアルバムですが、現代曲による室内楽の楽しみが盛り込まれた充実したCDです。
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