1957年、富山県生まれ。13歳でサクソフォンを始め、宗貞啓二氏に師事します。1977年に国立音楽大学に入学し、故大室勇一氏に師事します。1981年に卒業後、アメリカのイリノイ州のノースウェスタン大学大学院に留学し、ここでヘムケ氏に師事し、1983年に卒業します。在学中に第51回日本音楽コンクール管楽器部門で第3位に入賞、また第39回ジュネーブ国際音楽コンクール・サクソフォン部門で日本人として初の銀メダルを受賞しました。
帰国後1984年に東京文化会館でデビュー・リサイタルを開き、1991年にはサントリー・ホールで井上道義指揮新日本フィルハーモニーと、岩代太郎作曲の「世界の一番遠い土地へ〜ソプラノ・サクソフォンとオーケストラのために〜」を共演し、ライヴ録音がBMGレーベルのCD「シルクロード」に収録されました。その後も新日本フィルでサクソフォンが必要な曲を演奏する場合は常に声がかかっており、他にも京都交響楽団、関西フィルハーモニー管弦楽団、北京中央楽団などのオケの客演奏者またムジクケラー室内合奏団のメンバとして活躍中。また雲井雅人サクソフォン4重奏団、コレジオ・サクソフォン4重奏団を主宰しています。現在、愛知県立芸術大学・尚美学園大学で教鞭をとっています。1996年には「とやま賞」芸術文化部門を受賞しました。また東京サクソフォーン・ソロイスツの録音にも参加しています。
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雲井氏のCDデビュー・アルバムで、ソプラノ・アルト・テナーの三本を吹き分けています。とかくガチガチのフランスものに偏りがちなサクソフォンのレパートリですが、アメリカへの留学経験からかヒンデミットやマーラーも取り上げられてます。どの曲も節度ある歌い方が印象的で、中でもコラール・ヴァリエや私はこの世にわすれられは感情過多にならず新鮮に響きます。音の切り方の処理がちょっと気になる点もありますが、全体では完成度の高いアルバムに仕上がってます。
なお、使用楽器は YSS-875s(ソプラノ)・YAS-875(アルト)・YTS-875G(テナー)となっています。
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1994年前後のリサイタルでのライヴ録音を集めたCD。ホールや機材の違いによりそれぞれの曲で響きが異なりますが、音楽を愉しむ上で差し障りはなく、ライヴゆえの演奏上のミスもほとんど気にならない程度。むしろライヴならではのテンションの高いホットな生きた音楽が印象的で、けして押し付けがましくなく自然な流れに逆らわない演奏に好感を持ちました。たとえばポジティブ・サインのような実験的な要素を含む曲でも必要以上にワケノワカラナイ音楽にならず、またオーヴェルニュの歌は少々雄弁ながらも根に素朴さを感じさせるのが不思議です。マルセル・ミュールにならってブランデンブルグ協奏曲のトランペットパートをソプラニーノ・サクソフォンで吹いている演奏では、ブックレットに雲井氏自身が書いているように確かに音量のバランスは良好とはいえないかもしれませんが、音楽を演奏する喜びが曲の隅々にあふれています。
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1枚まるごとシューベルトで構成されたアルバム。アルペジョーネ・ソナタは、おかしな表現ですが、演奏を聴いていて、サクソフォンの演奏を聴いているように感じませんでした。たしかにそこに響いているのはサクソフォンとピアノによるシューベルトの音楽なのですが、ここではサクソフォンはシューベルトの音楽を紡ぐ手段に徹していて、その潔さは素直に感動しました。物語・冬の旅は、同名の曲を、ナレーション+サクソフォン+ピアノで"演じる"よう、林望氏(!)がテキストを訳したパフォーマンス・ピース。これは実際の音響空間の中で聴いたらなかなかおもしろいと思うのですが、正直なところ視覚的要素がないとちょっとつらいな、と感じました。これはCDというメディアの限界か、それとも私がこのような歌曲の類を生理的に好きでないのか(苦笑)、、、しかし言うまでもなく雲井氏の演奏は完成度が高く、音楽の志向性が明確であり(しかもそれが音の硬さになっていない)、志と技が揃った一聴に値するアルバムといえるでしょう。
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Simple Songs というタイトルは、1曲目の題名でもありますが(正確には曲名は A Simple Song ですが)、なるほど雲井氏自身の思い入れがそれぞれの曲のこめられているのですね。その思い入れが自己完結に終わらず、感動や苦悩を経て音楽結果が、このアルバムとしてプレゼンテーションされています。時に肉食獣的な響きを聞かせるマズランカのソナタでさえ、全曲を貫いているのは命の歌であり、雲井氏を演奏にかきたてる欲求の源であるのではないでしょうか。あるいはバッハでは、切りはなすことのできない宗教的な背景に目を背けず、その音楽の成立する意義を真摯に問うているように聴こえます。曲に内在する/背景として存在する精神的な部分をとても意識した演奏を一貫して続けているように思います。
奇しくも、雲井氏の師であるフレデリック・ヘムケ氏の最新のアルバムが Simple Gifts というタイトルでしたが、まったく偶然とのこと。しかし演奏にもこのタイトルにも、ヘムケ氏の遺伝子が確かに埋め込まれつつ、それが確実に雲井氏そのものの音楽となっていることに、あらためて感動しました。
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サクソフォンとトランペットそしてピアノのトリオ−ピアノはともかく、個性の強い楽器同士、どんな響きになるのか見当がつきませんでした。が、よく考えてみたらジャズだとあまり珍しくない組み合わせなんですね。リヴィエ以外はどれも初耳の曲ばかりですが、室内楽的な要素の強いタネーエフでも、歌曲的な要素の強い伊藤作品でも、テレビドラマのエンドロールを見ているようなケンツビッチ(津堅直弘)氏の作品でも、曲のキャラクターを描き分けつつ、異楽器という壁を易々と乗り越えて成立する奏者間の対話が実にオトナ。クールかつスリリングなエネルギーは、クラシックではありますが、ジャズ、たとえばマイルス・デイヴィスとケニー・ギャレットのライヴから感じるそれに近いように思いました。
クラシカル・サクソフォンの世界としては異種格闘技的なアルバムではありますが、購買層を広げるだけでなく、より幅広い音楽ファンの取り込みも期待できるでしょう。今後ますますこういったアルバムがリリースされることを期待したいです。
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フェルリングは、クラリネットのクローゼ、フルートでいうところのアルテス、とでも言えばよいでしょうか。本格的にサクソフォンを習得しようとする人が必ず手にするエチュードです。このエチュードはもともとオーボエのために書かれたもので、後にマルセル・ミュールが校訂・追加して出版されているものです。
エチュードの見本演奏ではありますが、全曲に詳細な文章の解説がついており、明確な解釈が入った演奏は単なる見本演奏を越えたものになっています。そして、ボーナストラックとしてサクソフォンを発明(開発、という方が正しいかも?)アドスフ・サックスの工房で20世紀初めに作られた楽器による演奏が2曲収録されていますが、これが実に興味深いです。いわばヒストリカル楽器ですが、今の輝かしいサクソフォンの音色とはまた違う、柔らかくふところの深い響きが印象的です。
エチュードの録音ということで考えると需要は限られているかもしれませんが、サクソフォン吹きの方は、機会があればこのユニークなアルバムを聴いてみることをおすすめします。
ちなみに、私はアルテスはやったけど、フェルリングは手にしてません。。うむむ (^^;
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NEC玉川吹奏楽団の演奏会のライヴ録音盤ですが、この中で雲井氏が2曲ソロを披露しています。ホールで生演奏を聴いたのですが、実はCDはまだ聴いてません(苦笑)。この演奏も、上記のアルバム同様、甘くてベタベタになりがちなトマジのバラードを、胃にもたれず、しかも体温を感じさせる演奏で聴かせてくれます。翼をくださいは当日アンコールで演奏されたものですが、編曲が気にいらないなぁ(笑)ちなみに、雲井氏はNEC玉川吹奏楽団のサクソフォンのトレーナをされてる関係で、演奏会のソリストのお話があったとのことです。
雲井氏の演奏以外では、ウィリアム・テルが聴きものです。冒頭のチェロのフレーズを、バスクラのソロにおきかえた編曲は、思わずうなりました(いや、予想はしていましたが)。演奏も然り。スーザの行進曲も、たいしたことのない曲なのですが、スーザ協会メンバの指導も入って、躍動感あふれる演奏になっているのがサスガです。
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吹奏楽で人気の高い、1943年生まれの作曲家マスランカの2作品を収録したライヴ盤。1曲目のリベレーションは、グレゴリオ聖歌「我を解き放ち給え」をベースに展開される、叙事詩のような壮大な作品。心の奥深くから湧いてくるような合唱を前にすると、ただただ謙虚になるしかない自分に気づきます。曲の最後にある長いサクソフォンのソロが、解き放たれた素の心のもつ穏やかさを表しているようで、とても印象的です。
協奏曲のソロは、日本でこの曲を初演するならこの人しかいないと思っていたとおりの雲井雅人氏。それにしても5曲約40分は、管楽器の協奏曲としては体力・精神力の限界ではないでしょうか。心の不安定さを感じさせるような1曲目に始まり、時にバッハの引用をはさみながら、人の心の深みを垣間見つつ、そっと終わっていく5曲目まで(解釈的にあっているかどうかは知りませんが)圧倒的な音楽が展開されていて、途中で息つく間もないほど。この曲は先にオーティス・マーフィー氏のソロの録音を聴いていますが、雲井氏のソロはより人間的な苦悩やあこがれ、ストレートな喜びといった多彩な表情が伝わってくるような気がします。そして、それこそがマスランカ氏の曲の本質じゃないか、と思うのです。
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