15歳でプロのロック・グループのベース奏者となり、その後クラシック奏者に転じ、パリ音楽院でサクソフォンと室内楽の1等賞を得て卒業します。そして歌劇場でコントラバス奏者として出演すると思えばルネッサン期の音楽をヴィオラ・ダ・ガンバやリコーダ、クラムホルンといった古楽器で演奏し、ブーレーズの主催するIRCAM(現代音楽研究所)でサクソフォンを吹きまくるという変わった経歴を持っています。彼はソプラニーノからコントラバス・サクソフォンまで7本のサクソフォンを操り、主にアヴァンギャルド方面の作曲家から150を超す作品を寄せられています。ご紹介するアルバム以外にも、電子楽器を使ったアルバムがリリースされています。下記の公式ページでチェックしてください。
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すべてバリバリの現代音楽。先頭のオープン・シティでいきなり二本のサクソフォンの音が聞えてきますが、これはジャケの写真のように、二本同時に吹いてるんでしょうかねー(ローランド・カークみたいに)。いくつかの曲はドゥラングルのアルバムと重複してますが、下手なたとえですが、ドゥラングルの演奏がどこか遠い宇宙のかなたで鳴っている非日常の音だとすれば、ケンジーの演奏は近所から聞えてくる日常と隣り合わせの音楽のように聴こえました。いや、別の言い方をすれば技術的にはドゥラングルの方が上、ということなのですが。ケンジーの演奏はどことなく人なつこく、憎めません。
なお、アナログ録音音源のCD化です。
オススメ度:
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ブカレスト音楽院の3人の教授がケンジーのために書いた曲を集めたアルバムです。1曲目のカントスから微分音というか、なんとなく非西洋的な響きがして、フラジオや重音など特殊奏法が続くので、現代音楽が苦手な方は聴かない方がよいでしょう(笑)。続く協奏曲は、1楽章がバリトン、2楽章がソプラニーノ、3楽章がアルトで演奏され、サクソフォンのいろいろな「響き」の洪水で、このアルバムの中では一番楽しめました。ナレーションIIは、混沌とした中から唐突にフランス民謡の断片が聴こえてきますが、おもしろいというよりは違和感を覚えました。
なお、アナログ録音音源のCD化です。
サクソフォンとコンピュータシステムのための作品を収めたCD。どの曲もメロディらしいメロディはまったく聞こえず、すべてサクソフォンを使って発生できるノイズをコンピュータ処理してできた音響、といった雰囲気です。それでも、不思議と人間クサい音に感じるのは、ケンジーのなせワザでしょうか。楽器を知り尽くしたオッチャンが、こんな音も出せるんだ〜 と目をきらきらさせて楽しんでいるように感じるのです。きっとケンジー氏は、すてきなオッチャンに違いない!と思うのでした。
ケンジー氏はサクソフォンの現代奏法や解釈を記した「Saxology」を書いており、(私自身は読んでいないのですが)内容の濃い著作と聞いています。このCDはいわばその参考音源盤。ソプラノからバス・サックスまでのソロ曲が演奏されており、一部は既存の音源・抜粋を含みますが、CDに加えて楽譜を含んだ分厚いブックレットがついており、楽譜を対照しながら聴くことができます。そして、後半に100の特殊奏法も収録。ノーマルにはじまり、トリル、スラップ、持ち替え記号あたりまでは珍しくありませんが、重音、Flattersonie-Fermée、Barrissement、Fluto-Voxax(って、どんな奏法??)、、などなど、数々の特殊奏法をひとつひとつ譜例、解説、そして音で確認することができます。これは、現代奏法を志すサクソフォン奏者にとっては、貴重で重要な資料でしょう。もちろん、奏者でなくてもサクソフォンの現代音楽に足を踏み入れたい人、また作曲を志す方にも聞いてほしいCDです。
オススメ度:
イタリアの作曲家ジュゼッペ・ジュリアーノは、フランスのIRCAMをはじめ、欧米はもちろん、日本の秋吉台国際20世紀音楽セミナー&フェスティヴァルにも招かれたことのある精力的な作曲家です。ここに収録されたいずれも電子音と楽器のための音楽ですが、どの曲も、電子音が耳をつんざくノイズを発するのではなくて、楽器の音をひきたてつつ、時に対立し協奏しながらひとつの音響を構築するという曲。メロディらしいメロディはなく、また不協和音が続きますが、私の耳にはけして暴力的な音ではなく、空間の広がりを感じる思索的な音楽に聴こえました。なかでも、日本人奏者宮田まゆみ氏によるメタフィジカルな庭では、笙・電子楽器それぞれの持続音が繰り広げる立体的空間を興味深く聴きました。ケンジーによるランダムSは、サクソフォンの多彩な響きが電子音のややモノクロームと対比されてユニーク。ランダムSのSとは、サクソフォンのSでしょうね。もしかしてソプラニーノからコントラバスまでの楽器をランダムに奏しているのでしょうか? 不思議な音響世界を楽しむことができました。
1995年に没したポルトガルの作曲家ヨルゲ・ペイジンホの曲を集めたアルバム。ケンジーとは親交が深く、二人仲良く座る写真がジャケットにも使われています。どの曲も聴く側としては集中力を要する、とでもいえばいいのでしょうか。どの瞬間を切り取っても、ある深い一点にベクトルが向いていて、密度の濃い空間/時間を体験、否、ベクトルに不覚にも引き込まれてしまいました。難解な現代音楽ゆえ、気軽に聴くことはできませんが、聴くたびにペイジンホとケンジーの絆の深さを感じさせる不思議なアルバムです。
オススメ度:
曲目の編成を見るとぎょっとしますが、要はサクソフォンとテープによる作品を集めたアルバム。すべてケンジーにささげられた作品で、最初から最後までさまざまなサクソフォンの音楽、というより響きが満ち溢れています。私自身、これらの音楽を理解できるわけではないのですが、それでも日常の延長に展開する音楽として耳に入ってきてしまうのは、私がすでにケンジー・ワールドに毒されているからでしょうか(苦笑)
これまたサクソフォンとテープのための音楽を集めたアルバム。ほとんどの曲が1984年12月の演奏会でケンジーによって初演された曲です。ソプラノやバリトンが多用されていますが、テープと音の対比という点ではたしかにアルトやテナーよりもおもしろいかもしれません。これらの音から、何を見出すか??は、もしかしたら、私たち聴く側にゆだねられている、のかもしれない、と、ふと思いました。アルバムの中ではケンジー協奏曲の、重厚な中にも多彩な響きが印象に残りました。 。
4年越しでようやくこのCDを入手! スペイン、というかカタロニアの作曲家、ルイス・デ=パブロが、ダニエル・ケンジーのために作曲した協奏曲。いろいろな通販webを徘徊した結果、フランスの通販サイトから数度目のトライでようやく入手しました。まあ、そんな個人的な感激はともかく、オーケストラに導かれて始まるコントラバス・サクソフォンの野太いソロは、確かにデ=パブロの確信的な音だな、と納得の音楽です。やがてバリトン、テナー、ソプラノ、ソプラニーノと持ち替え(アルトがないのが確信犯ですね)、楽器の特徴を活かした曲想が続きますが、音楽の流れはあくまで大河のように太く、聴いているほうが呑みこまれてしまいまそう。で、油断していると意表をついた曲の展開に驚かされます。思い入れ先行のこのCDでしたが、その期待を裏切らない、重量級のCDにとても満足しました。しかし、やはりこの曲はぜひぜひ実演で聴いてみたい。そんな機会がないでしょうかね??楽器を揃えるだけで壮観??
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ジャズにインスパイアされた、ドナトーニのホットの初演ライヴを収めたディスク。曲の趣向としては、ジョリヴェの曲をさらにヒートアップしたような雰囲気。現代音楽専門部隊?のポール・メファノ指揮アンサンブル2e2mをバックに、なるほどフリージャズさながらのアツい音楽が展開されます。テンションはあくまで高く、しかしけして孤高に走らず、地に足のついた音が繰り広げられ、圧倒されました。この曲も、ぜひ生で演奏を聴いてみたい! どなたか、日本でも演奏しませんかね????
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以前、ケンジーはペイジンホの作品集をリリースしていますが、こちらはペイジンホを偲んだ曲が集められています。さまざまな作曲家によるさまざまなスタイルの曲が収められており、高音から低音までさまざまな音色が聴こえてくるのがユニーク。ひとつひとつの曲は難解ですが、それでも他のアルバムの曲に比べればまだトンがった内容は少ないようです。特に最後のブラジル風に踊るペイジンホはタイトルからも想像できるとおり、一瞬軽やかな雰囲気が漂います。アルバムのいたるところから、何というか、敬愛に満ちた響きが感じられるのがこのアルバムの特徴でしょう。
1952年、ルーマニアのティミショアラに生まれ、現在はフランスで活躍する作曲家、ホリア・スリアヌの作品集。1951年生まれのケンジーとは同年代になります。ソプラニーノのつんざくようなフレーズで始まる協奏曲は、続くハーモニクスなど特殊奏法の印象的、持ち替えたテナーの奏でるパッセージはミステリアス、、。というように、冒頭と最後以外はあまりけたたましく響くこともなく、ただ次々に繰り出す不思議な響きに、意外にも魅了されてしまいました。エスキスのほうは編成は小さいはずですがより複雑な響きがします。耳を傾けているうちにあっという間に過ぎてしまう25分間でした。
おそらくは、完全に即興による演奏。これってクラシカル・サックスとして考えるべき?かは疑問もありますが、現在進行形のサクソフォンのあがき、ということができるでしょう。たしかに、ここには彼らにしかできない表現がつまっています。
持ち替えを多用したサクソフォンとテープのための作品。これらの曲についてもコメントできる立場にないのですが、おもちゃ箱をひっくり返したよううな、不思議でユニークな音色の数々を、素直におもしろいと感じるか、それとも(これまた素直に)拒絶するか、、私はかろうじて前者と感じました。それにしてもケンジー氏の精力的な録音活動には頭が下がります。
これまた収録時間30分の小アルバム。これまたハードな現代音楽で、万華鏡のようなさまざまな音色(ノイズ)の数々がスピーカから繰り広げられます。これはこれで、初めて体験する不思議な音空間。聴いていて居心地がよかったかどうかは別として、作曲家の意図する、いやケンジー氏がインタープリタするものは感覚的に伝わってきている、気がします。
収録時間29分のディスク。タイトルからおわかりのとおり現代音楽、それもかなりハードな内容。電子音に声、サクソフォンが混じり、メロディらしいメロディはもちろんなく、私の理解を大幅に超えている音楽なのですが、どうしてケンジー氏の演奏を聴いていると不思議と抵抗なく耳に入ってきてしまうのです。おそらく、ケンジー氏のあまりに真摯な現代音楽へのスタンスが、ふと耳を傾けてしまう「音楽」にいざなっているのではないでしょうか。
マイケル・パスカル氏の、実質的に連作といえる作品群を集めたアルバム。曲をみておわかりのとおり、奏者を想定して実質的に献呈された曲もあり(「パズル」の各曲もソロ楽器をフューチャリングしたものが多くなっています)、楽器の表現力の限界に挑むようなハードな内容です。さまざまな楽器の音色や技術を、パズルのピースのように組み合わせてひとつの響きを作っていくという点で、この録音には凝縮されたものを感じることができました。