1956年生まれの現代イギリスを代表するサクソフォン奏者であり、マイケル・ナイマン・バンドのサクソフォン奏者として活動する一方、指揮や作曲活動も行ない、自作自演をセルフプロデュースして録音を世に問います。フランス流のサウンドとはまったく異なるクールな音色と、テクニックを武器に、ドビュッシーの「ラプソディ」を演奏したかと思えば、プロムスのラスト・ナイトでバートウィスルの「パニック」を吹き、ジャズやブルース調のアルバムをリリースするといった具合です。マイケル・ナイマンをはじめギャビン・ブライヤーズ、マーク・アントニー・タネジといったイギリスの作曲家はもとより、ベリオとも親交があり、数多くの作品を寄せられ、初演を行なっています。
また、自身の率いるバンドを結成し、クラシックともジャズとも民族音楽ともつかない、自作の、いわゆるノンジャンル音楽を演奏したかと思えば、ポール・マッカートニーが作曲した「スタンディング・ストーン交響曲」のオーケストレーションのアドバイザーとなったり、とまさに八面六臂の活躍ぶりです。
さらには自身のサクソフォン協奏曲の自作自演をはじめ、タヴナーの2重協奏曲(チェロのイッサリース!!と)、バートウィスルの2作目のサクソフォン協奏曲など、今後も多くの企画が予定されています。録音も、Clarinet Classics レーベルにソロおよび4重奏(!)のレコーディングが予定されているとか。ますます目が離せません。ちなみに4重奏は定期的な活動も行なうようで、そのメンバーはハールをはじめサイモン・ハラーム、デルタSQのソプラノ奏者であるクリスチャン・フォーシャウ、そしてアンディ・フィンドンという顔ぶれ。これは要チェックでしょう。
一方、1988年にギルドホール音楽院の教授となり、イギリスのサクソフォン界に多大な影響を及ぼすようになります。たとえばアポロ・サクソフォン4重奏団はハールの門下生です。また同年BBCテレビでハールの特別番組が組まれるなど、イギリスのサックス界の大御所といってよいでしょう。完璧なまでの技術と、どんなにアツくなってもクールな音色、これこそがハールの最大の魅力かつオリジナリティに間違いありません。
なお、ネット上の情報によれば、ミシガン大学でドナルド・シンタ氏の後継としてサクソフォンの教授に就任するとのこと。今後アメリカでの活躍が期待できるでしょう。
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もともと Hyperion レーベルからリリースされていたこのアルバム、すぐに廃盤となり入手困難だったのですが、2004年に Clarinet Classics から再リリースとなりました。実際、私も買い逃してほぞをかんでいたクチです(笑)まずは貴重な録音の最流通を素直に喜ばしく思います。ウッズやベネットのソナタの正面切った演奏も魅力的ですが、ルーマニアや嘆きの、まさに体当たりの演奏が印象的。最近のハールの演奏とはいい意味でずいぶんと異なった印象を受けます。デニソフでは独特の解釈も聴き取れますが、これは若きハールの旺盛な表現意欲ゆえでしょう。ハールの一面を知る上で重要なアルバムです。
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サクソフォンのレパートリとしては比較的オーソドックスな曲が集められています。音色はいつものクールな響きで、フランスや日本のサクソフォンを聴きなれた耳には若干違和感を感じるかもしれません。たしかにとてもうまく、特にイベールはこのCDでは難所もスイスイ吹きまくってしまい、物足りないかも(笑)。また、オーソドックスな解釈とはずいぶん異なる個所もありますので、気になる方にはちょっと?となるかもしれません。バックのマリナー指揮アカデミー室内管はさすがの出来ですが、残響の多い録音はちょっと気に入りませんでした。
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同じサクソフォン協奏曲集でも、すべてハールのために作曲されたものばかり。現代イギリスもの特有の、耳障りなく、しかしクールな世界が繰り広げられています。サクソフォン好きの人にはたまらないかもしれませんが、そうでない人が聴くとちょっと飽きるかも。蜜蜂が躍る場所はマクリスタルや弟子のハラームの演奏と聴き比べてみるのも一興。ビーン・ローズ・アンド・ブルース・ショッツは、クラシックというよりは限りなくジャズですな。
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「スタンレー・マイヤーの思い出に」と題されたアルバム。このアルバムもすべてハールのためにかかれた曲ばかりです。個人的には前作よりも楽しめました。マイヤーの曲は現代音楽にありがちな不協和音の連続でなく、かといってメロディアスな曲でもなく、響きを響きとして楽しむ曲といえますが、こういう曲ではハールの持ち味が活きています。スタン・ゲッツ協奏曲の中で不意に出てくるメロディアスな響きは、妙に甘ったるく感じてしまいますが、ハールの音色はもたれずにすむのが幸い。同じイギリスのサクソフォン奏者マクリスタルもトークの協奏曲を録音していますが、マクリスタルが暖色系の演奏とすれば、ハールは寒色系の演奏とでも言えるでしょうか。
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マイナーレーベルからの1枚。ナイマンもソングブックと題されたアルバムを出しているので、同じような意識で作ったのでしょうか。小品がばかりですが、題材は古典からロマン派、現代イギリスまで何でもあり。全体としては、感情希薄なせいか退屈気味ですが、ダウランドやジョンソンなどの作品は感情過多に陥らず素直に演奏されていて好感が持てます。なお、蜂が蜜を吸うところでには弟子のハラームも参加しています。
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クラシックでもロックでもなく、独特の路線をいくアルバム。もう、これは聴いてみなければ説明ができません。ナイマンの作曲スタイルと同じように、古典的な曲に題材をとり、自分の音楽に変質させてしまう手法はさすが。ジャズやロックの要素を露骨に取り入れて変質させていて、人によって好き嫌いがはっきりわかれるアルバムでしょうが、私はハールの録音の中では一番気に入ってます。
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1952年イギリスのサザンプトン生まれのムルドウニーは、作曲家であると同時にキーボード奏者でもあり、ブランフォード・マーサリスのアルバムでシンセサイザー奏者としてクレジットされてたりします。その彼の手によるピアノ協奏曲は、さすがに手の込んだもので、ソリストのドノホーが正面切って果敢に立ち向かったテンションの高い演奏が繰り広げられます(その分、聞きとおすにはやや疲れますが)。ハールの演奏するサクソフォン協奏曲は1984年の作曲で、ピアノ協奏曲ほどトゲトゲしくはありませんが、それでも不思議な響きがあちこちから聴こえてきます。3楽章はほとんど変拍子のビックバンド・ジャズ。実演を聴くとなかなか楽しそうです。
しかし、このCDが British Composer Series として再リリースされたのにはびっくり。すでにイギリスではムルドウニーもメジャーな作曲家として認められてるんですね、、、
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19世紀中頃のニュージーランドを舞台にした、ジェーン・カンピオン監督による映画「ピアノ・レッスン」で使われている曲は、モノクロームなジャケットから想像できるとおり、哀愁を感じさせるピアノの訥々としたメロディが印象的。クラシック奏者、たとえばクラリネットのリチャード・ストルツマンなども好んでレパートリにしています。おそらくはナイマン自身も気に入っているのでしょう、後に作曲したピアノ協奏曲は、この映画で使われた素材を用いています。このサウンドトラックにはサクソフォン奏者としてハールをはじめ、デイヴィド・ローチ、アンドリュー・フィンドンの名前が記されており、彼らのアンサンブルをフィーチャーしたHere and Thereは攻撃的に演奏されていて、落ち着いた他の曲に対して異彩を放っています。この曲はサイモン・ハラームやロンドン・サクソフォニックなども録音を行なっており、サクソフォンで聴くことのできる典型的なナイマン節としてスタンダードになりつつあるといえるでしょう。
映画は1993年に発表され、主演のホリー・ハンターはその年のアカデミー主演女優賞を受賞しました。ここでは、2004年5月に再プレスされた "NYMAN at 60" とシールのあるCDを購入、これに基づいた紹介となっています。
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ダールの作品集のうち、協奏曲のソロをハールが担当しています。この曲は他の演奏者のCDも何枚か持っていますが、オケのうまさの点ではこれが一番ですね。本当はドナルド・シンタのソロ(演奏はミシガン大学)が好きなんですが、、CDになってないのかなー? さて、ハールのソロはもちろん切れ味がよくて、クールな音色が曲の雰囲気にマッチしてて佳演。他の曲も、全体にリズム感がよく好演と思いますが、あまり面白く感じられないのは、曲のせい?
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タイトル曲でハールも参加しているハードな妖精を中心に、グラハム・フィトゥキンが1992年前後に手がけた作品を集めたアルバム。サングラスをかけた天使のジャケットもイケてます。ピアノ・ピースと題された、静をベースにした一連の作品の間に、タイトルのつけられた動的な作品をはさみこみ、アルバム全体でひとつの作品性を感じさせます。このアルバム構成の手法は、クラシックというよりもポップス系の手法ですね。シリアスな雰囲気とは無縁ですが、マイケル・ナイマンにも共通するポップで直線的な曲作りで迫ります。
なお、このアルバムは Decca の「British Music Collection」として、
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今世紀のスイスの作曲家、フランク・マルタンのバラード・協奏曲集。どの曲も楽器の特性を駆使し、難しい音域もあえて曲中に使われていて、実際に演奏するにはかなりのテクニックが必要な曲ですが、そこはさすが Decca レーベル、見事なソリストで演奏を聴かせてくれます。トロンボーンのソロがむちゃくちゃうまいな、と思ったら、ソリストの名がリンドベリになっていて納得。指揮者のシャイーもこの手の曲は得意とみえ、コンセルトヘルボウ管をソツなくまとめています。
サクソフォンのためのバラードも、ジグード・ラッシャーに捧げられ初演が行なわれた曲とあって、ラッシャー得意の超高音域が使われています。ともすると高音域の音程が不安定になりがちで、実際録音でさえ聴くに耐えないものもあるのですが、ハールの演奏はどの音域でも安定していて、全く不安なく音楽そのものを楽しめました。もっともあまりに安定していてスリリング感は乏しいのですが、これはやむを得ないでしょう。願わくば、マルタン自身が楽器の音色にこだわって作曲をしたように、演奏でも音色へのこだわりが欲しかった気もします。
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1934年生まれのイギリスの作曲家、バートウィスルの管弦楽作品集。どの曲も(といっても2曲だけしか収録されていませんが)音が塊になって轟きわたる、といったパワフルなサウンドです。2曲目はタイトルからしてアース・ダンスですし。。。1995年のプロムスのラスト・ナイトで初演されたパニックはサクソフォンのソリストがハール、ドラムキットがクラヴィスであることを前提に書かれた一種の協奏曲で、2人ともここぞとばかり自由奔放に暴れ回ってる様子。ハールの自作自演以外の演奏で、最も大胆に演奏している録音といってよいと思います。
なお、最近Deccaレーベルからバートウィスルの2枚組の作品集として再リリースされたのが下のジャケットのCDです。お値段もお手ごろでおトクです。
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ナイマンの協奏曲集で、作曲者と親交の厚いメンバがソロを取っています。それぞれの曲とも、演奏者を想定してかかれているせいか、超人技と独特の"うた"を堪能できます。もう、想像どおりのナイマン節で、嫌いというヒトも多いに違いありません。中でも、ハープシコード協奏曲のエセ古典的な響きの向こうに、ホイナッカとナイマンのニヤリとした顔を見た気がしました。このアルバムの一番の聴きどころは、なんといってもトロンボーン協奏曲のソロをつとめるリンドベリの演奏でしょう。ホントこのヒト、スゴイのよねぇ。というわけで、ほかの2曲に比べると、2重協奏曲はやや退屈気味。
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Virgin Classicsレーベルからリリースされた、タイトルどおりミニマル・ミュージックを集めたアルバム。力強いフロンティアを除いて不協和音はほとんど響かず、ある意味耳に優しい音楽とも言えるかもしれません。特に、ハールとハラームのサクソフォンが優しく響くファザードに至っては、これ、ムードミュージックじゃないの?と思うほど甘美。ただ、聴きこんでいくと、耳に優しいからこそ少しづつ変わっていく音のもたらす効果が新鮮に聞き取れるようになっていくでしょう。こういう曲を吹かせたら、やっぱりハールの右に出る者はいないなぁ、とあらためて感じました。
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タイトルどおり、スペインはカタロニア出身の作曲家による協奏曲を集めたアルバム。演奏者もオーケストラ、トロンボーン、フルートがカタロニア出身で固めてありますが、CDから聴こえる音楽は意外にも(私たちが期待している)スペインの香りというよりはむしろ古典的な音楽の香りが漂ってきます。とはいえ曲はそれぞれ個性的で、中でもハープのコンチェルト・カプリチオは、ソロ楽器の上品さを保ちつつコケティッシュな面も聴こえて楽しめました。ハールの演奏するサクソフォン協奏曲はスペイン的/カタロニア的というよりアメリカ的。曲に強い個性を感じることができなかったのが少々残念ですが、この曲もサクソフォンの新しいい魅力を引き出そうとしている点は感じとることができました。
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実力とエンターテイメント性を兼ね備えたマリンバ奏者エヴェリン・グレニーが、邦人作品に取り組んだアルバム。ありふれたメロディをアレンジしたものではなく、本格的なオリジナル作品ばかりで、技術レベルの高さには驚かされます。しかし、間の取り方や節回しは若干日本人の感覚と違うのか、もうちょっとタメてほしいと思うところでスッと先に行ってしまったりして、欲求不満を感じるところがありましたが、これは解釈の違いなんでしょうね。実はこれを最も感じたのが、ハールとやりあっているディヴェルティメントで、サクソフォンの第一音目でちょっとずっこけてしまいました。もうちょっと尺八のように飄々と入ってきて欲しかった(願望)。とはいえ、逆に今まで思いこんでいた表現方法とはまったく異なる切りこみもあったりして、それはそれで楽しめました。
なお国内盤も出ていましたが廃盤のようで、ディヴェルティメントに限ればグレニーのベスト盤「Her Greatest Hits」(タイトルがポップス系っぽいですね)にも収録されてるので、こちらを買われるのもよいでしょう。
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ロンドン生まれでスコットランドで活躍する女流作曲家ビーミッシュの作品を集めたBISレーベルのアルバム。どの曲も不協和音が迫るハードな曲ではありますが、録音のせいもあるのでしょうが常にどこか透明感とリリシズムをたたえたサウンドが印象的です。ハールの演奏するThe Imagined Sound of Sun on Stoneは、副題に協奏曲とあるようにサクソフォンをソリストとして扱った作品で、1999年にスコットランドの北に浮かぶオークニー島で行なわれた音楽祭でハールによって初演されました。スコットランドの地をこよなく愛している私としては、北の孤島オークニーで行なわれたこの初演はさぞや大自然の空気に融けこんでいっただろうな、と想像するだけで血が熱くなってしまいます。
余談ですが、次のアルバムも同じ月のうちに録音されており、ハールの人気ぶりが感じられます。
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うー、こんなところにハールが出没するとは思いもよりませんでした。どうもタヴァナーというと合唱系の作曲家というイメージが強くて、ほとんどノーチェックだったのです。ハールの参加する皆既日食はこの録音に参加したメンバーが2000年に初演したもので、古楽アカエデミーがタヴァナーに委嘱した「永遠の日の出」に次ぐ2番目の作品となります。曲は迫害者であった聖パウロのキリスト教への回心の物語がモチーフとなっていて、ハール奏するソプラノ・サクソフォンは聖パウロを表しています。特に冒頭で暴力的に繰り広げられるサクソフォンに対して、バロック・オーボエがキリストの優しさを表現し、最終的にサクソフォンの音色も変質していく過程が聴きドコロです。他にもバロック・トランペットやバロック・トロンボーン、カウンターテナー、複数奏者によるティンパニといった古/現代楽器の混成編成も違和感なく響き、ハールの目指す「サクソフォンの多様な表現」が充分発揮されている演奏です。
なお、このアルバムはCDショップで宗教曲として分類されていることが多いので、探す場合は気をつけて!
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打楽器奏者グレニーとのコラボレーション第二弾。というより、D.ヒースとグレニーとの共同作品に、ハールもゲスト参加している、というほうが正しいでしょうか。クラシックであり、ロックやジャズの要素も取り入れられていて、かといってライト・ミュージックとも異なる、「楽しめるクラシック」路線とでもいうような曲。うーん、ぜんぜん説明になっていないなぁ。強いて言えば、サントラ盤でも聴いているような印象。まずは、聴いてみてください。
ハールはこの中で新しい時代の夜明けに参加しています。ハールらしい?くねくねしたメロディラインの間に、グレニーのパーカッションが炸裂。演奏者もお互いに楽しんでいるようです。
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またまた合唱曲への登場です。1963年生まれのイギリスの若手作曲家ホィトボーンの作品は、多少現代的な要素をとりいれながらも、響きは正統的な教会音楽の流れをまったく逸脱しないもの。いい意味で、同世代の音楽とは思えないほど和声の美しさが印象的です。
ハールはこのCDの目玉の一つともいえる20分あまりの大作太陽神のミサにソリストとして参加しています。合唱曲に、ニュートラルなハールの音色が合うのでしょうか、合唱とサクソフォンのけして単純に対立するのではない、ほどよい対比が耳に残ります。こういう曲はやはりハールの独壇場でしょう。
このCDのもう1つの目玉といえるのが、テナー奏者のロバート・ティアーとのコラボレーションといえる愛の神秘。若くして合唱・声楽に精通した作曲家の力量と、作曲家を理解し自分の能力を十二分に発揮している円熟した演奏者の幸せな関係を聴くことができます。
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神出鬼没のジョン・ハール、なんとライト・ミュージックにも出没! ライト・ミュージックときいてピンときた方、あなたは立派なイギリス音楽ファンですね。肩肘はらずに楽しめるクラシック、無茶な例えをすればルロイ・アンダーソンのような曲、と説明しておわかりいただけるでしょうか。アルバムタイトルにもなっているロンドン・ランドマークなら「トラファルガー広場」「タワー・ヒル」「ホワイト・ホールの騎馬連隊」、ロンドン・フィールドなら「キューの春」「ハンプトン・コートのそよ風」「セント・ジェームス・パーク〜湖畔の散策」「ハンプステッド・ヒース〜逍遥のロンド」といった楽章からなる次第。もちろん、タイトルから想像できる親しみやすい曲風で、ティータイムに気軽に楽しめるBGMにオススメ。
ハールが参加しているのは2曲だけですが、マジメに、しかしさりげなくジョークを交えた演奏で、ハールの多彩ぶりが楽しめます。
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ハールの神出鬼没ぶりはこんなところにも! ハールのみならずサイモン・ラトル(!!)がピアノで、フルートはゴールウェイ、ヴァイオリンのタスミン・リトルにチェロのスティーヴン・イッサリース、パーカッションはエヴェリン・グレニーとまああきれるほど豪華な顔ぶれが友情出演しています。そもそもこのアルバムはメゾ・ソプラノ歌手のクリスチーン・ケアンズとセント・ジョーンズ管弦楽団の指揮者ジョン・ラボック夫妻の自閉症の息子アレクサンダー君に捧げられたもので、自閉症への理解と援助を目的としたチャリティーとのこと。全編ラボックの編曲でケアンズが歌っています。
民謡、しかも日本人に親しみのあるスコットランドの民謡ということで、美しいメロディにあふれていて、友情出演奏者の肩肘張らない演奏にも心和みます。個人的には、チェロのイッサリースの、英国紳士然とした演奏が特に気に入りました。あ、タスミン・リトルのヴァイオリンは別格です(実はかなりのファン)。もちろん、ハールの演奏も、どことなくクールで、しかし本当は優しくけして遠くないところから音楽を紡いでいるのがいかにもハールらしいです。
なお、日本語タイトルは「心癒されるイギリスの古い民謡集」となっているのをどこかで見ましたが、実際にはスコットランド民謡のようです。
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1977年にデビューして以来、エルヴィス・コステロはロック奏者、パンク・ロックのヒーローの地位に甘んじることなく、アグレッシヴで多彩な活動を続けてきました。音楽を通じた風刺や批判、たとえばサッチャー政権に対する徹底的な批判といった政治的な行動もありますが、純粋に音楽の面のみを捉えても、ジャズへの積極的なアプローチ、弦楽4重奏との共演、そして、ジョン・ハールを始めとする異能集団とのコラボレートなど、その精力的な活動は衰えることを知りません。そのコステロが作曲したクラシカル・バレエの下敷は、なんとシェイクスピア。直感的に、これは何か意図するところがあるな!と思いました(浅学の私にはよくわかりませんが)。
能書きはともかく、オーケストラと交互にハールのサクソフォンを中心としたポップス風のセクションが入る構成こそユニークですが、管弦楽法や楽器用法はオーソドックス。だからこそ適度にコントロールの効いたティルソン=トーマスの指揮の見事さとそれに応えるLSOの巧さが光ります。真面目だけどシリアスではなく、どこかイギリスのライト・ミュージックにも通じる歌謡性は、さすがコステロの独壇場です。ただ、正直なところ、コステロの力が100%発揮されていないように思えてちょっと不満が残ったのですが、これはコステロの意図する「何か」が、まだ私に理解できていないからなんでしょうね。きっと舞台をみないとだめなんだろうなぁ。
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サイモン・ラトルがロンドン・シンフォニエッタを振ったジャズ・アルバム。ジャズの要素の強いクラシック・ナンバーに加えて、ジャズのナンバー?が録音されています。ちなみにこのCDではハールはソリストとしてのみならず、ロンドン・シンフォニエッタのサクソフォン・セクションのトップに名を連ねています(現在は同楽団のサクソフォンのトップ奏者はサイモン・ハラーム)。演奏もラトルの棒に応える演奏者もすばらしいのですが、どうも私はこのアルバムを聴いて楽しく感じられませんでした(実はラトル率いるバーミンガム響のどの演奏を聴いてもそうなのですが。)。世界の創造でのハールは、なるほど暴れまわっていますが、あくまで高度に計算された理性的な演奏で、もっと吹っ切れた上で余裕をかますくらいの演奏を繰り広げてほしかった、というのが個人的な趣味からの感想。この曲が、フランスの曲でもなく、ジャズにルーツを置くアメリカ系の曲でもなく、無国籍ラトル風に仕上がってしまっているのが私の趣味とあわない原因かもしれません。むしろ、マイケル・コリンズがソロをとるエボニー・コンチェルトや前奏曲、フーガとリフのほうが、もともと曲の持つ無国籍/多国籍さがこの演奏者の持ち味にあっているように感じました。またラプソディ・イン・ブルーのドノホーのピアノも立派。
なお、このジャケットはイギリス仕様のものらしく、私の手持ちのCDは異なる写真が使われています。
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最後に、オケのソリストとしてクレジットされたアルバムをひとつ。ティルソン=トーマスのラヴェル集は、リズム感がよいのと、必要以上にフランス臭さが漂わない点が長所ですが、ここにハールの音色がぴったりはまって、不思議な浮遊感が漂ってます。なお、クレジットされてはいませんが、ボレロでソプラノ・サクソフォンを吹いているのもハールでしょう。くれぐれもこのアルバムを、おフランスなラヴェルを期待して聴かないように。
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