1957年フランスのリヨン生まれ。リヨンでセルジュ・ビションに師事し、パリ国立音楽院に入学してダニエル・デファイエに師事し、1977年にサクソフォン科を、1979年には室内楽科を1等賞で卒業します。1986年には指揮者ピエール・ブーレーズの主宰するアンサンブル・アンテルコンタンポランのサクソフォン・ソリストに選ばれました。1992年以後ベルリン・フィル、世界各地でソリスト・客演奏者として活躍しています。一方、1988年にデファイエの後任としてパリ国立音楽院の教授に任命されて以来、現在もそのポストにあり、後進の指導やレパートリの開拓にも積極的です。
ドゥラングルのレパートリの大きな部分を占めているのが現代音楽で、フランス流の、いやミュール流の、ヴィヴラートを多用した伝統的な音色とは一線を画し、サクソフォンそのもののストレートかつ不思議な丸みを帯びた音色が印象的です。また現代作曲家と親交があり、デニソフの「サクソフォン協奏曲」やベリオの「セクエンツァIXb」などは、当初サクソフォン以外の楽器のために書かれた作品であったのを、作曲者とドゥラングルのコラボレーションによってサクソフォンのための作品に生まれかわりました。
現在はスウェーデンのBISからリリースされたCDが入手しやすいですが、他にもフランスのレーベルに吹き込んでいるようです。また、アルミン・ジョルダン指揮モンテカルロ・フィルと、ドビュッシーのラプソディをレコーディングしたものもあります(レーベルは Erato、未聴)。また、Grammophone レーベルの ブーレーズによるウェーベルン作品集 では、作品22 に ドゥラングルが(IRCAMのメンバとして)テナー・サクソフォンを吹いていますが、アルバムにドゥラングルのクレジットが記載されていないのでここではご紹介を省きました。
1998年に来日で演奏したイベールの小協奏曲は、生演奏を聴いた友人の話では、それは素晴らい演奏だったということです。ドゥラングル=前衛、ととらえられがちですが、一方で "良き" 伝統を継ぐのも実はドゥラングルなのではないかと思うこのごろです。
長いこと入手不能となっていた、アルミン・ジョルダン指揮モンテカルロ・フィルと録音したドビュッシーのラプソディの録音が、まもなく再プレスされるという情報もあります。ますます今後の活動が気になります。
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"前衛"ドゥラングルを代表する一枚。難解でありながら、しかし聴きこもうとすると奥の深さを感じさせる曲を、正確無比に演奏しています。大げさですが、もはや人間業を超えているのでは? いくつかの曲はケンジーのアルバムと重複しているので、聴き比べてみるとオモシロイでしょう。ドゥラングルの凄さがあらためて実感できるかも。
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協奏曲はヴィオラのための作品からの改作ですが、サクソフォンのために書かれた作品といっても違和感のない曲です。4楽章ではシューベルトの旋律が現れては消え、形を変えて再現される様が、夢うつつの世界を行き来しているようなリアリティを感じさせます。尾高氏のサポートも、難解なデニソフ・ワールドを純粋な音楽に帰化させていて、好感をもちます。ドゥラングルの演奏の質からいえば、このアルバムが最高かもしれません。
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難解な響きの曲が続きますが、ドゥラングルのしなやかな音色のせいで聴き飽きません。グヴァイドリーナの作品はバスーン作品からの改作ですが、アヤシく低音が重なりうごめく響きは、思わず引き込まれてしまいます。また天使のための音楽は、タイトルにそぐわず(笑)やはり難解な曲ですが、それでも他の曲に比べると調性が感じられ、不思議な響きがして楽しめました。なおデニソフの録音は、Denisov - Concerto for Alto Saxophone etc.同一テイク、Pierre Verany レーベルのものとは別テイクです。。
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どの曲もゲンダイオンガクで、真剣に耳を傾けざるをえないのですが、なぜでしょうか、不思議と疲れないのです。西、または秋の夕暮れの唄は、冒頭のパーカッションの響きから、日本的というより凡アジア的な印象を持ちました(解説によれば、韓国ということですが)。また、最後のナイト・バードは、作曲者が女性だから、というわけではないのでしょうが、響きに色気を感じてゾクッとします。そのほかでは、奇妙な朝IIIや私でなく、風が…が新鮮に聞こえました。
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現代音楽ものから一転、フランスの印象派期の作曲家による作品を集めたもの。アルバムタイトルの "For A Lady" は、今世紀はじめにフランスの主要作曲家に多くのサクソフォン作品を委嘱したエリザ・ホールを意味していて、このアルバムでも a,c,d,e は彼女の委嘱による作品です。(しかし、こんなそうそうたる作曲家陣が曲を書いてくれるなんて、すごいですねぇ)
このアルバムの聴きどころはカプレの伝説とコラール・ヴァリエの2曲を、20世紀前半にアドルフ・サックスの工場で生産されたシルバー・プレートのサクソフォンで演奏している点です。現代の楽器が息づかいにきっちり反応して明るく輪郭のはっきりした音色なのに対して、この楽器は渋めのやや地味な柔らかい音色がします。抵抗が強いのかな? 音の立ち上がりがあまり鋭くありません。好みの問題ですが、私はこの曲にこの音色の組み合わせはとても気に入りました。また、この音色ならドゥラングルのようなノン(またはごく控えめな)ヴィヴラートの奏法は合理的なように思います。願わくば、ピアノも当時の楽器を使うとさらにおもしろかったのでは?
一方、このアルバムには2曲の編曲ものを含んでますが、元がクラリネット曲の小品は、この奏法で聴くとなるほどサクソフォンでも効果的な響きがします。またもとがピアノ曲のソナチネは、ラヴェル独特の玲瓏な響きが原曲とは違った視点から感じることができ、楽しめました。
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2002年春のリリースは、フランスの比較的古典的な、しかし前作よりはやや新しい時代のレパートリを集めたアルバム。ここでもドゥラングルはヴィヴラート少なめの音色で驚異的なテクニックを聴かせてくれます。特にケクランの練習曲ではそのテクニックがこれでもかとキッチリ聴こえて、この曲がさまざまなテクニックを織り込んでいる練習曲だという一面を再認識させられました。ちなみに1、2、3、8、9、10、13番が収録されています。またクロカンブッシュは6曲それぞれにお菓子の名前がつけられていて、曲に含まれている(お菓子の名前にちなんだ)仕掛けがおもしろいほど浮き彫りにされています。多くの奏者がレパートリとしているラメントとロンドやデザンクロでは、余計なハッタリをかまさずストレートに吹ききっていて圧巻。ある意味、これは自信のなせるワザでしょう。ただメロディや和音が親しみやすいプロヴァンスの風景になると、もうすこし開放感のある、ほっとするような気持ちになりたいとも思います。アルバムタイトルの A la francaise がちょっと皮肉に感じてしまうのは、既に私の耳が固定観念に染まってしまっているからでしょうか?
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2003年末のリリースは、サクソフォン黎明期の1850〜70年代に作曲されたオリジナル曲を、1900年頃に製造された楽器で演奏しています。同様な企画はボーンカンプやショウラキのものが既にあって、当然収録曲もかなり重複しており、聴き比べるのも一興でしょう。ドゥラングルの録音はその技術的な完成度。緩急どんなパッセージも自由自在、サクソフォンの長所のひとつである機能性を存分に発揮したこれらの曲を、アクロバティックな面を含めてきっちり一つの音楽として体現したところにこのアルバムの価値があります。
ところで、ドゥラングル氏がこれらの曲を録音したのが1998〜99年(録音期日からすると、一部はSaxophone For A Ladyと同時の録音かも)、リリースまでに4年近く経ってしまいました。その4年の間に、サクソフォンによるピリオドアプローチを試みる演奏・録音も少しづつ増えてきました。もっと早くこのドゥラングルの演奏がリリースされていたら、また状況は変わっていたのではないか、と想像してしまいました、、
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これまた録音から3年経ってのようやくのリリース。うーん、こんな見事な演奏、早く世に送り出してくださいよ>BISレーベルさん。見てのとおり、サクソフォンとオーケストラのための定番曲がずらり。もちろん、ドゥラングル氏の演奏は見事なもので、フランス風の華やかな音楽を期待すると若干肩透かしにあいますが、例えばイベールでの超高音域でさえまるで鼻歌でも歌っているかのごとくさらりと演奏し(あまりにさらりとしていて、カタルシスを感じないのはやむをえないところでしょう)、トマジの細かい音符も見事に吹きこなし、伝説ではシュミットの濃厚なロマンティックさを浄化し凝縮したような音楽作りを展開します。定番曲ばかりということで、おそらくはドゥラングル自身が何度も繰り返し演奏してきた曲なのでしょう、どの曲も非常に完成度の高い演奏です。あとは趣味の問題ですが、オーケストラの表現がさらに潤いがあるといいな、と感じました。
なお、亡き王女のためのパヴァーヌは、野平多美さんのソプラノサクソフォンとオーケストラのための編曲が使われています。
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各奏者それぞれに、高い技巧とセンスが要求されるにもかかわらず、まったく不安を感じない完璧な演奏は、恐ろしいほど。ドゥラングル氏の、ストレートで全く躊躇のない、それでいて不思議な色気を感じさせる音色は相変わらずです。それぞれの曲における、間合いや音空間の端々に日本的なセンスを感じたりするのは確かですが。。これだけ音を抽象的に扱うにも関わらず、言葉がストレートに耳に入ってくると、その言葉の意味と抽象的な音との関係の理解に苦しむ(わからなかった)という状態でした。つまり、コンテンポラリーすぎて、残念ながら、演奏者と作曲者(曲)・聴き手(私)の3者で同一の感情、思いを共有できるレベルではありませんでした。かろうじて、打楽器のアクセントが曲の進行を感じさせるアイヌの叙事詩…と、この中では古典的な作品というべきインプロヴィゼーションで、曲のおもしろさに入り込めたくらいです。
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ドゥラングルが中心となって結成された団体。実際には、サクソフォンとピアノだけの編成からほぼ全員による演奏まで、曲によってフレキシブルな編成となっています(がサクソフォンは必ず加わっています)。演奏は技術的には文句なくとても洗練された仕上がりになっています。ただ、私の趣味からすると、曲や演奏者に本場のメンバが多数参加していながら、血の流れるようなタンゴの精彩さ、毒々しさをあまり感じ取ることができなかった点、ちょっと残念でした。ドゥラングルの目指す方向はわかるのですが、この演奏を聴く限りあまり共感できていない、という状況ゆえかもしれません。この団体、これから息長く定常的な活動を続け、目のさめるような演奏を展開してほしいと望んでいます。
以前 Chant du Monde レーベルからリリースされていた (LDC 278 878) ディスクを、1994年に Vandoren からリリースし直したもの。そう、Vandoren とはリード・メーカのヴァンドレンです。サクソフォンのCDを聴き始めた初期にこのCDを買いのがして非常に後悔していただけに、ようやく入手できてとてもウレシイです。以前のCDを持っていらっしゃる方によれば、ジャケットは変わっているということです。
さて演奏の方ですが、とても抑制の利いた知的な演奏ともいえるでしょうか。イケイケになってしまいがちなスカラムーシュは、伴奏さえも手綱で押さえながら演奏を繰り広げていて、興味深いです。他ではケクランの2曲が特に印象的で、ドゥラングルの端正なサクソフォンとフルートがすがすがしく寄り添い、ムードミュージック的なケクランとは一線を画した仕上がりになっています。
最後2曲は4重奏による演奏ですが、一度聴いただけではあまりピンときませんでしたが、何度か聞き直しているうちに、曲そのものの妙味が感じられて楽しめました。なかなか渋い演奏です。
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上記同様ヴァンドレンから出ている、教育目的のCD。サブタイトルに「Standards francais pour les saxophonistes de Second Cycle」とあり、前衛的な曲はまったくなく、中級者レベルで吹くことのできる曲が録音されています。しかも、大半の曲は後半にピアノ伴奏のみのトラックも収められていて、これをバックに練習できる、という親切な内容。演奏の方は、いつもより少しヴィブラートがかかってるようですが、このスタイルでこの手の曲を吹くのはちょっとつらい気もします。まあ、模範のための演奏なので仕方がないのでしょうが、ファンの勝手な意見ですがやはりドゥラングルはもっと前衛的な曲をバリバリ吹きこなしているほうが似合うと思います。とはいえ、ドゥラングルが後進の教育の面でも優れた顔を持つことを伺わせる演奏です。
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指揮者としても有名なマリウス・コンスタンの作品集。現代音楽バリバリかと思いきや、作風は多彩なようで、このアルバムにおさめられた4曲もかなり趣向の違った曲に感じられました。ドゥラングルはこの中でコンチェルタンテを吹いていますが、正直なところ私にはこの曲はつかみどころがなく感じました。もう少し聴き込むと感想が変わってくるかもしません。
1曲目のホルンの(実質的な)協奏曲は、伴奏にピアノやサクソフォン、エレキベースにドラムも加わったジャズ・オーケストラのサウンドで、ジョリヴェに似た生命力あふれるジャズのエネルギーが「上品なホルン」のイメージを見事に打ち砕いてくれて痛快。2曲目のストリート(電子?)オルガン協奏曲は、タイトルをみたときはどんな音がするのか想像できませんでしたが、電子オルガンならではのピコピコピュンピュンという音色がうまく音楽に生かされていて、これまたなかなか楽しめました。最後のトロンボーン協奏曲も、トロンボーンの超絶技巧を盛り込みつつ複雑な響きが脳天を刺激します。サクソフォン以外の点では、このアルバムはかなりのおすすめCD。
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Pierre Verany レーベルが入手困難な状況の今、このCDの入手はちょっと苦労しました。1990年に録音されたこのCDは、もちろんBISの音源とは異なるもので、ドゥラングルによるソナタに加えてソプラノからバリトンまで4種のサクソフォンを持ちかえる小さな協奏曲(Concerto Piccolo)を含んでおり、ここでもドゥラングルの切れ味のよい演奏を楽しむことができます。もちろんサクソフォン作品もおもしろいのですが、他の打楽器作品も興味深い作品で、ヴィヴラフォンによる黒い雲はタイトルにもかかわらずきらめくような響きが印象的ですし(だからこそ黒さをも想起させる)、遥かなる星の光の、湾にきらめくでもさまざまな楽器の打音が幻想的な響きを醸し出しています。けしてやさしくない音楽ですが、不思議と繰り返し聴きたくなるアルバムです。
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1965年生まれの若い作曲家、ティレリー・エスケッシュの作品集。アルバムJardin Seceretにもエスケッシュの小品が収録されていますが、こちらは比較的大きな作品が中心です。ドゥラングルは1曲だけの参加ですが、この協奏曲1992年にドゥラングルが委嘱し同年イタリアで行われたワールド・サクソフォン・コングレスで初演した曲です。若手の作曲家を大切にするドゥラングルの姿勢が現れたような、愛着を持って演奏しているように聴こえます。他は室内楽作品が収録されていますが3つの間奏曲のサクソフォンはバラグリオリが担当しています。
1943年生まれで、現在フランスで精力的に活動を続けている作曲家、ヒュー・デュフールの室内楽作品集。IRCAMのメンバでもあるデュフールの作品は現代的ですが音群が迫ってくるような暑苦しい響きではなく、室内楽作品ゆえか理路整然とした響きに感じました。演奏メンバも現代音楽を得意とする奏者がそろっているようですが、ドゥラングルやグレメーユらによるサクソフォン4重奏曲の演奏も技術的にはすばらしい内容であることは確かなのですが、私の力で充分理解できる内容の音楽ではないというのが正直なところ。4重奏曲はXASAXによる演奏も入手可能なので、比較して聴くとアプローチの違いが楽しめるでしょう。